2015年9月30日から10月2日にかけて、日本最大のコーヒー展示会であるSCAJが東京ビッグサイトで開催されました。珈琲楽市編集部では10月1日に参加。その様子をレポートいたします。
◆ジャパン ブリュワーズカップ2015
SCAJの見どころの一つは会場内で行われる協議会。10月1日はジャパンバリスタチャンピオンシップ(JBC)とジャパンブリュワーズカップ(JBrC)が開催されました。そのうち、ジャパンブリュワーズカップ(JBrC)の様子をレポートします。
機械的動力を使わない手動器具でコーヒー抽出をするこの競技。器具が比較的身近であったり、競技者によって抽出器具を選べるなど自由度も高かったりで、個人的にはバリスタチャンピオンシップより面白いのではと感じました。
私が見た競技者だけでも、エアロプレス、サイフォン、クレバー、ネル、セラミックドリッパーと様々な抽出器具が登場しました。
中でも興味深かったのが、優勝者の粕谷哲さん(@コーヒーファクトリー)。以下のように、家でも簡単に再現できる内容だったからです。
・抽出器具:エアロプレス
・お湯の温度:81度
・コーヒー豆:30gを粗挽き
・逆さ位置(インバート)の状態で、120ccのお湯を15秒かけて注ぎ、10秒撹拌
・エアロプレスをコップにセットし、40秒待つ
・20秒かけてプレス(抽出)
・110gのお湯で割って完成
ポイントは、いかにコーヒーのおいしい部分だけを取り出すか。コーヒーは最初に酸味成分、後から苦味成分が出てきます。苦味成分でもえぐみを伴った重い苦味ほど後から出てくるため、最初に出てくるおいしい部分だけ濃く抽出し、それを湯で薄めて適度な濃度にする、というもので、松屋式ドリップと考え方としては同じですね。
上記抽出を実際に試してみましたが、コクと甘みがしっかりしていて、かつ雑味のない味わいで、素直に美味しいと思えました。通常の倍のコーヒー豆を使うので非常に贅沢な淹れ方と言えますね。
他の競技者も何人か見ましたが、低温でおいしい成分だけ取り出す(雑味を出さない)、というのがポイントになっているようでした。例えばサイフォンの競技者も、通常は沸騰したお湯が上部に移動して抽出するため必ず高温抽出になるサイフォンですが、上部に移動したお湯に水を差して温度を80度にした上でコーヒー粉を投入するというやり方をしていました。
40度というかなり低温での抽出と高温抽出とを組み合わせている競技者、60度のお湯で抽出し最後に湯煎で再加熱するという方法をとっている競技者、常温の水で蒸らしを行う競技者もいました。
使用しているコーヒーで興味深かったのが、珈琲蘭館の田原照淳さんが使用したフィリピンのカラサンスイートコーヒー。年間100kgしか採れない貴重な豆だそうです。フィリピンのコーヒー自体、なかなか出回っていないですよね。
◆各ブース
SCAJ2015で特に興味深かったブースについてご紹介します。
<パナマ>
パナマブースでは、ゲイシャ種のコーヒーが4種類も試飲できました。有名なエスメラルダ農園ともう一農園、ゲイシャ種の水洗式(ウォッシュド)と非水洗式(ナチュラル)がそれぞれありました。どちらの農園もナチュラルが非常に風味豊かでゲイシャ特有のフローラル感とナチュラルのしっとりとした質感とボディー感で飲みごたえがありました。
<石光商事>
石光商事のブースでは2つ面白い展示がありました。
1つ目は、生豆熟度検査機。未熟豆に多いジクロロゲン酸の濃度などを計測し、生豆の熟度をはかるというもの。
コーヒー豆の熟度の高さと品質の高さとはかなり比例するので、生豆の品質をはかる指標として画期的ですね。
2つ目は、味覚センサーによるプロット図。縦軸に苦味、横軸に酸味をとり、石光商事が扱うコーヒー豆の味のバランスがプロットされていました。更にコンビニ各社のコーヒーもプロットされていたのですが、各社結構味のバランスに開きがあって興味深いです。このくらいの味バランスで、と言えばそのバランスになるようなブレンドで最安値のものを提案できるそうです。テクノロジーの進歩で味という曖昧なものも数値化できるようになったんですね。ただ、もちろん官能検査も合わせてしているとうことでした。
<BEANSCORP.,Ltd.>
韓国の会社で、外出時に持っていける携帯用の器具を紹介していました。
Cafflanoという器具で、ドリップケトル・ミル・ドリッパー(ステンレスフィルター)・タンブラーが一体となっているものです。
これがあれば外出先でも挽きたてのコーヒーが飲めますね。
◆コーヒー生産国セミナー
<ホンジュラス>
SCAJでは事前予約制のセミナーも多数開催されています。今回はホンジュラスの生産国セミナーに参加しました。
ホンジュラスでは2012年にさび病が流行り、コーヒー生産が大打撃を受けたようで、その影響と対策についてのお話でした。
2012年さび病流行の影響は、以下のように甚大なものだったそうです。
・生産量 22%減少
・損害額 6億4600万ドル
・雇用 7万人失職
ホンジュラスは全体の95%が小規模農家であり、技術や知識が乏しい農家が多いということで、IHCAFE(ホンジュラス国立コーヒー研究所)がそういった農家に対して技術指導を行ったり、正しい農薬の使用法を指導したりしました。
また、小規模農家は金銭面の余裕がないため、お金をかけなくてもできる対応を指導・教育したり、ネスレや国立銀行などによる支援体制を構築したり、といったこともやっているとか。
更に、実験農園を使って生産性の高い品種を作り、それを小規模農家に導入する、といったことも行っているそうです。
再発防止策としては、ホンジュラスがパイロットモデルとなり、中米全体でさび菌早期警告システムを構築し、常に監視しているとのこと。監視しながら様々なデータを収集し、そのデータを分析・研究して、その内容をコーヒー生産国間で共有したり、さび菌発生時の警告をレベル別に発令し、それぞれのレベルに応じた対策を促したりしているということです。
品質の保証にも非常に力を入れており、ホンジュラス国内にあるIHCAFEの6つの地方研究所で輸出前の品質管理を行っている他、生産者に対して実際に自分たちの作ったコーヒーを飲んでもらうワークショップを開催し、品質管理の大切さを伝えたり、加工業者・運搬業者・輸出業者など関係者全てに品質指導をおこなっているそうです。
今後の懸念材料としては、
・NY市場の価格変動
・気候変動(エルニーニョ、ラニーニャ)
といった要素が大きな変動要素としてあげられていました。
我々が日々おいしいコーヒーを飲めるのも、生産国の方々の努力のおかげ。感謝の気持ちを常に忘れずにコーヒーを楽しみたいですね。